9月18日② オーディション開催
棚ボタ的な話をもらった俺は、一度イケメン社長と別れ、2時間後に再度待ち合わせをする事となった。
すげえな。こんな話があるんだな。
本当に「社長さんの友達は社長さん」なんだ…
とまぁ、芸能人を眺める一般人的考えを巡らした俺は、このチャンスをものにすることを誓った。
「いくぞ。このまま一気に駆け抜けて、俺もこの人達と肩を並べられる社長さんになってやる。
そして、若い起業家に『知り合いに起業家を応援している社長さんがいるから、紹介しましょうか?』なんて言いたい… 言いたい…
グフフフフ…」
気持ち悪い笑い方をしながら妄想している俺は幸せ者だった。
この後、いろいろな出来事が起ころうとは、この時予想すらしていなかったのだ。
今はただ目の前にある事に一生懸命取り組む事が大切なのだ。
今の段階では一歩一歩進んでいる。
「一人の人間にとってこの一歩は小さいが、人類にとっては偉大な一歩である。」
あれ?逆か?
イケメン社長さん用にプレゼン資料を持っている。
イケメン社長さん用にスラックスとシャツ、ネクタイもしている。
(結構暑い日だったが、失礼のないように。)
準備は万端だ。
いざ、出陣!
IT社長さんの会社は表参道のめちゃくちゃ立地のいい場所にあった。
黒い扉を開け、イケメン社長さんと俺は颯爽と中に入って行った。
会議室で少し待ち、いよいよIT社長さん登場!
・・・
「めっちゃ良さそうな人!」
さすが「若手を応援したい。」という仏の心を持った人である。
60歳前後で、7:3分けで、懐かしい眼鏡をかけたたれ目のオジサマ。
「か、かわいい…」
そんな印象を持った事は口が裂けても言えない。
さて、ホ◯タテ名物の名刺交換を済ませ、早速「オフィス争奪男だらけのチキチキオーディション」の開催である。
「これこれこういう事業を始めまして、こういう事がやりたいんです!」
「…」
「最初はこれくらい売って、ゆくゆくはこれくらいの売上にしていこうと考えています。」
「…」
「その為にはこういう方法をとろうと考えていて、最終的にはここを目指しています。」
「…この数字の根拠は?」
痛い、痛いよ、社長さん…
かわいい風貌からは予想だにしない一撃。
もうこちらは一撃で瀕死の重傷です。
さすが、一国を率いている首長なだけあるぜ。
そのかわいらしい見た目は相手を欺く為か・・・
なんて策士だ。
「すいません、現時点では根拠を明示できません。
あくまで経験から来る推測です。」
「そうですか。ホームページを見て頂くと分かるんですけど、うちの会社はね…」
このままIT社長さんの演説は30分続いた。
こうして、俺のオーディションは幕を閉じたのだった。
一撃で 全て挫かれ ジ・エンド