7月25日 拒否権2
最初は近況報告や他愛もない話である程度盛り上がった。
さて、ここからが本題だ。
彼をスカウトしなくては。
「今、ネットショップを始めて、是非原田の商品も置きたいんだけど、どうかな?」
「俺、ネットに洋服は置かないよ。」
「(え?)でも、ECの市場規模は年々増えてるし、初期コストがかからないから、置いて損はないんじゃないかな?」
「お客さんに実際に触って見てもらえないから、俺はECサイトには置かないよ。」
「・・・・・・」
・・・2言で断られた・・・
これは夢なのか?
ネットショップ自体もオープンさせたし、色々な人に会って宣伝もした。
リスティング広告も打ったし、他のデザイナーも集めた。
デザイナーさんにデメリットは一つもないし、うまくいけばメリットしかないのだ。
デザイナーさんの力になれればと思って始めた事業なのに断られるなんて、
完全に想定外だ。
この後、あの手この手を使って原田を説得にかかった。
EC販売のメリットと将来性。
イベントも平行して行い、お客さんに直接触ってもらう機会を作る事。
今のアパレル業界の現状と今後の進展。
・・・・
結果、惨敗・・・
その後、追い打ちをかけるように原田はこう続けた。
「アパレル業界でやっていきたいなら、もっと勉強しなよ。」
「掛け率は、ペラペラペラペラ・・・。」
「PL法が、ペラペラペラペラ・・・。」
「だいたい、アパレル業界ってのは、ペペラペラペラペルラペラルラ・・・。」
3年以上アパレル業界を離れていて、アパレル企業に勤めた経験のない俺にとって原田のしゃべっている言葉は暗号だ。
確かに俺の勉強不足は否めない。
しかしだ、しかしだよ、君。
ところどころ単語は聞き取れるレベルで、あとは何を言っているかさっぱりなのだ。
「ペラルラペルラタッカラプトポッポルンガプピリットパロ・・・・」
「ペペラペルロラペロペロペルロバルス・・・」
これは俺の勉強不足のせいか?
しかもなぜに上目線?
もう俺の頭は回転を止めた。
わかった。もう自尊心や自己顕示欲は無にしよう。
最後の手段だ。
俺は素直になる事に決めた。
「ごめん、俺の勉強不足だ。」
「アパレル業界の詳しいところを教えてくれないかな?」
「自分で調べなよ。」
チーン。
もう俺の心は90度を越えて折れ曲がった。
最初から出鼻を挫かれてしまった。
大丈夫なのか、この事業?
聞き取れず 業界用語と 早口言葉